作家目線の作品評『シン・ゴジラ』

物語を作る人間は、独自の視点で作品を鑑賞するものです。多くの場合、「すげーいいわぁ、今度自分の作品でこのエッセンスを使ってみようかな」とか「ダメだろ、これじゃあ受け取り手の共感を得られない」とか、そんなことを考えながら自分の作品の肥やしにするために虎視眈々としているわけです。
そんなわけで、作家の特殊な視点で、映画『シン・ゴジラ』を評してみたいと思います。

◎予算不足?

まず感じられたのは、ゴジラの登場シーンが少なめかな? ということです。遅々として進まない政治家たちの駆け引きや無責任さを描くシーンが長すぎるのです。風刺映画ならばありなのですが、特撮映画として売り出すにしては、やや特撮部分が薄く、バランスが悪く感じられました。
まっさきに浮かぶ理由は、予算不足でVFXにかける費用が足りなくなったことでしょうか。実際のところはどうだったのかを知るすべはありませんが、もしも意図的にこのバランスにしたのだとすると、近年のVFX偏重映画に対する挑戦とも受け取れます。
でも、特撮映画でVFX偏重に挑戦しますかね、普通(^^;)

◎主役が出木杉くん

主人公のキャラクター造形には、大いに難があります。
未来の総理大臣を目指す若き二世国会議員。理想に燃えており、決断力があり、友人や仲間に恵まれている……って、なんですか、そのキャラクターは?
完全無欠。穴がなさすぎて、ほとんどの人は感情移入できないでしょう。人々は、出木杉くんではなくのび太くんを愛するのです。
常識的なキャラクター造形をするならば、なにかしら欠点があったり、トラウマや不安定さを抱えているという設定にします。そのマイナス面が主人公の原動力となり、困難に直面した際には不屈の心を生み出し、事件解決に際してはカタルシスを増大させる、そんな役割を果たすからです。
キャラクター面では、対策チームの奇人変人たちにぜんぶ持って行かれてしまい、主人公は影が薄くてどうにもいけません。いっそ、対策チームの紅一点の女性を主人公にしたほうが、よっぽど盛り上がる話にできたはずです。

◎行き過ぎたメタファー

全編に散りばめられたメタファーは、物語のすべてが東日本大震災とその後の原発事故を象徴していることを示しています。
でも、さすがにこれは、ちょっとやりすぎでしょう。メタファーというよりも、もはや震災そのままになってしまっています。しかも、あまりにもそのまま描いたにもかかわらず、現実よりもあっさりと収束させてしまうのは、いささか作り手として無責任です。ここまでストレートに原発事故を比喩したのであれば、今も処理しきれない汚染水を抱える現実の福島第一原発の状況をふまえたオチにしなければ不誠実というものです。
映画の中はで「結論ありきで無駄な会議をして無難な発表をする」という政府高官たちの姿勢が皮肉られていました。しかし、それと同じことをメタファーという形で、作品の中で実行してしまったわけです。
これが、もうすこしマイルドな比喩に止めておけば、ここまでオチの無責任さが際立つことはなかったはずです。

◎庵野秀明氏の引き出し

アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をご覧になったことのある皆さんなら、シン・ゴジラにおける「ヤシオリ作戦」がエヴァンゲリオンにおける「ヤシマ作戦」とそっくりであることに気づくはずです。
かつてエヴァンゲリオンを表して宮崎駿氏が「正直すぎて自分には何もない事まで表現した」というようなことを言ったそうです。庵野秀明氏という作り手は、物語をストレートに作ることが信条であるがゆえに、その引き出しはどうしても狭くなってしまうのかもしれません。シン・ゴジラの随所に見える「エヴァ臭」を良いと感じるか悪いと感じるかは鑑賞者次第ですが、庵野秀明氏の物語作家としての引き出しが驚くほど狭いことは、残念ながら明白です。
もっとも、庵野秀明氏の卓越した演出能力は、目を見張るものがあります。冒頭のゴジラの「これじゃない感」にはじまり、最後のゴジラの「大暴れ」まで、物語作家としてよりも映像作家としてのセンスの高さが際立っていました。

◎トータルの評価

映画『シン・ゴジラ』が面白いか面白くないかで言えば、間違いなく面白い映画だと言えます。起承転結もしっかりしていて、物語上の消化不良感はほとんどない形に仕上がっています。
しかし、すごく面白いかと聞かれると、微妙なところでしょう。エヴァ臭にハマる人はハマるかもしれません。庵野秀明氏の特撮やメカに対するマニアックな部分に共感できる人も、楽しめるでしょう。しかし、私のように主人公のキャラクター造形やメタファーの使い方に不満を感じる人には、もうひと息感が否めないと思います。

・滝澤の独断と偏見による採点(各項目3点満点)

キャラクター:1点
ストーリー:2点
テーマ性:2点
映像:3点

合計:8点(12点満点)

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