作家が教える小説の書き方講座「人称と視点」

今回は、小説講座などで必ず登場する「人称」の話です。
が、理論上・技法上の説明は、ネット上で探せばいくらでも出てきますので、そちらをご覧ください。
ここでは、そこいらの講座ではなかなか教えてくれない、もっと実際的な「書き方」について説明していきます。
 

人称の選び方

なんとなく書きやすいから一人称。場面転換がしやすいから三人称。というような感覚で作品の人称を決めている人がいたら、その人は大きな損をしているかもしれません。
物語には、それぞれに適した人称があるのです。作家が自由に人称を選べると思っているなら、大間違いです。物語によって、強制的に選ばされていることを自覚しましょう。
一人称=制約
三人称=ダイナミズム
これが特徴です。
 

・制約

人は自意識という名の檻に閉じ込められています。私たちはそこから抜け出すことが絶対にできません。
他者の意識を想像することはできますし、理解しようと努力することもできますが、本当の意味で理解できることはないのです。
そんな自意識に縛られ、自身の能力の限界を思い知らされながら苦闘する者を描く場合は、一人称しかありません。
制約のあるモヤモヤした状況の中で泣き笑いする者の姿を、没入感の高い一人称で情感たっぷりに描いてみてください。
 

・ダイナミズム

視点を切り替えることで読者を引きつける手法があります。こうした手法を使う場合は、三人称でなければなりません。

変則的な手法ですが一人称多視点を使えば、こうしたシーンを表現することは可能です。しかし、読者に伝わることを考えるならば、視点の切り替えが理解しやすい三人称のほうが適しているのです。一人称ならではの制約も同時に描きたいのであれば話は別ですが、通常は一人称多視点のような変化球を使う理由はありません。
これらのことからわかるように、いわゆるエンタメ作品は、ほとんどの場合三人称向きの物語なのです。エンタメ作品であえて一人称を選ぶには、相応の理由が必要です。
 

・視点とは何か

三人称多視点、といいますが、ここでいう「多い視点」とはどのようなものでしょうか。ここでは視点について掘り下げてみましょう。
三人称多視点を説明する際によくあるのは、ある人物の視点と別の人物の視点を切り替えながら物語を進めていく手法、みたいな内容かとおもいます。
しかし、これ以外にも視点の動きは存在しており、これはカメラを例に考えるとわかりやすくなります。
人物の頭の中にあるカメラ。人物の目と同期しているカメラ。人物を中心に映しているカメラ。人物とその周辺を俯瞰で見るカメラ。などなど。
こうして考えると、同じ人物を捉えているカメラでも、さまざなカメラ位置があることがわかります。物語の目的に合わせて、どのカメラ位置が最も効果的にイメージを伝えられるのかを考えながら、ベストを選んでいくのが書き手の仕事です。

 

視点変更の具体例

以下の例文を読んでみてください。

「佐藤は迷っていた。しかし、ここで誘惑に負けてしまっては元も子もない。佐藤はポケットの中でもてあそんでいたタバコの箱をにぎりつぶすと、近くにあったゴミ箱に放り込んだ。やっぱり、禁煙しなくては。佐藤は心の中で改めてそう誓った。」

これは、人物の頭の中にカメラがある描写です。佐藤であること、禁煙するか迷っていること、ポケットの中で箱をにぎりつぶすこと、などは外見上からは一切わからないことです。こうした内面の描写のためには、カメラは脳内にある必要があります。

しかしその反面、この人物がどのような外見をしているのかは一切わかりませんね。
これを、この人物を映す外部のカメラで描写すると、次のようになります。

「女がコンビニエンスストアの前に立っていた。女は茶色の長い髪をポニーテールに結んでいて、黒のハーフコートの裾からは形のいいふくらはぎが見えている。女はなにか思案するような様子でしばらく立っていたが、やがてポケットからつぶれたタバコの箱を出すと、店頭に備えつけのゴミ箱に投げ入れた。」

実は佐藤が女であり、コートを着るような季節であり、立っていた場所はコンビニの前、という情報が伝わります。しかし、逆に捨てたタバコの理由はまったくわかりません。
このように、三人称多視点の中でも、カメラ位置の選択によって伝わる情報と伝わらない情報があるのです。この情報のギャップを使えば、読者に効率的に情報を伝えたり、逆に気づかないうちに情報を制限して読者をミスリードしたり、といったことも可能です。
一方、すべての情報を過不足なく伝える必要がある場合には、特定の人物にフォーカスしながらも、文の途中でカメラを意図的に動かします。感覚としては、映画のカット割りに近いのかもしれません。
 
「女がコンビニエンスストアの前に立っていた。女の名前は佐藤といった。佐藤は茶色の長い髪をポニーテールに結んでいて、黒のハーフコートの裾からは形のいいふくらはぎが見えている。そのハーフコートのポケットの中で、佐藤はタバコの箱をもてあそんでいた。佐藤は迷っていた。しかし、ここで誘惑に負けてしまっては元も子もない。佐藤はタバコの箱をにぎりつぶすと、コンビニの店頭にあるゴミ箱に放り込んだ。やっぱり、禁煙しなくては。佐藤は心の中で改めてそう誓った。」

カメラワークとして、どのタイミングで脳内カメラと外部カメラに切り替わっているか、注意して読むとよくわかると思います。

どの手法を使うかは、すべて作品で何を伝えたいかに依存します。ベストな形を模索してみてください。
ちなみに、人称と視点なんてものに神経をすり減らしているのは、作家だけです。読者はとくに視点の一貫性などをあまり気にしておらず、おおらかに読んでくれます。だからこそミスリードも仕掛けられるわけですね。
なので、書き手の都合で、どんどん視点移動を試してみましょう。
もちろん、やりすぎると読者の理解が追いつかなくなりますので、ほどほどのバランスが重要ですが。こればかりは、何度も失敗しないと最適解は導き出せないと思います。
かく言う私も、まだまだ暗中模索です(^_^;)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です